死を願う妻の求めに応じて殺害したとして、嘱託殺人罪に問われた自動車運転手菅野幸信被告(66)(相模原市)に対し、横浜地裁の川口政明裁判長は5日、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。「被告の苦悩、葛藤(かっとう)、悲しみの深さは想像の及ぶところではない」。川口裁判長は刑事責任を厳しく指摘しながらも、難病の息子の命を絶った苦悩から死を望み続けた妻をやむなく殺害した被告に、2人の分まで生き抜くことを求めた。
「被告を懲役3年、執行猶予5年に処す」。午後2時30分、主文が読み上げられると、菅野被告は川口裁判長に向かって頭を下げた。
判決などによると、妻・初子さん(当時65歳)は2004年8月、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)で闘病中だった長男(当時40歳)から懇願され、殺害した。05年2月に同罪で執行猶予判決を受けたが、長男と共に死ねなかったことを悔やみ、うつ病を悪化させて自殺未遂を繰り返した。
菅野被告は初子さんの自殺願望を取り除けなかった無力感などから、「妻の願いをかなえることが自分の責任」と考え、心中を決意。しかし、死に切れず、初子さんから「お父さん助けて」と頼まれ、殺害した。
判決で川口裁判長は「いかなる理由があろうと人の生命を奪うことは許されない」と厳しく指摘。「適切な治療を受けさせるなど、もう少し慎重な判断をすべきで、被告の刑事責任は軽視できない」と述べた。
一方で、被告が初子さんを懸命に励まし、支え続けたことや、2人の娘が寛大な判決を望んでいることを挙げ、「息子や妻の分まで生き抜くことこそ、責任を果たすために最も適切な方法だ」とした。
事件直後に自殺を思いとどまり、自首した菅野被告。2月15日の弁護側の被告人質問では、「力はないけど、焦らず、孫たちを見守っていきます」と誓った。
「今もどこかでALSと向き合い、懸命に生きている家族がいます。その人たちの気持ちや命の大切さを確かめ、心が折れそうなときには、法廷で述べた『生き抜く』という約束を思い出してください」
そう語りかけた川口裁判長や検察官、傍聴席に深々と頭を下げた菅野被告は、2人の娘に付き添われ、法廷を後にした。
(読売)
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